嫌悪は憎悪へ変わり、やがて殺意へと変わる。
そして、殺意が消えたときに起こったことと残るのは・・・。






03.思惑








僕は腸が煮えくり返りそうだと思った。
なんかに、穢れた血なんかに、僕が後れを取るなんて。
絶対に殺す。禁じられた呪文でもなんでも使って殺してやる。
僕は昇ってくる朝日を見ながら、心の中でに呪詛を繰り返し呟いた。

朝食時には幾分か落ち着き、なりふり構わずは無理だと考えていた。
禁じられた呪文なんて、とんでもない。
確かに父親の一家はそれで殺したけど、学校内で隠し通すなんてまだ無理だ。
それでなくてもホグワーツは監視が厳しすぎる、そしてあのダンブルドアがいるのだから。
僕はあいつが苦手だし、あいつに捕まるなんてごめんだ。

だったら。
まずは彼女を精神的に追い詰めるべきだ。
僕がやることは決まっていた。




彼女が歩いてくる。猫のようにしなやかで細い体はその端正な顔立ちを助長していた。
すると、彼女の前に立ちはだかった上級生のスリザリン生二人。彼女の眉がほんの少し釣りあがる。

「・・・何のようですか?」

彼女の声は凛として透き通っている。そんな声を聞いて上級生は顔を顰めた。

「ちょっと顔がいいからって、いい気にならないでよね。」

「そうよ。それでリドルを誑かせたんでしょう?」

彼女は意味がわからないというように顔を顰めたが、廊下に隠れていた僕を見つけ、納得がいったらしかった。
見つかったことは不本意だったが、彼女がこれから受ける折檻を思い浮かべて思いとどまった。
彼女は僕の中で恐怖に青ざめる予定だったが、予想に反して彼女は不敵に微笑んだ。
僕はますます不愉快になったが、どうせ彼女が逃げる術などないと、気持ちを押さえつけた。
彼女は暫く上級生と睨み合ったあと、溜め息を吐いた。

「先輩らも、どうしてあんな人の事が好きなんですか?」

彼女が問うと、上級生は顔を赤くした。
ばれたことへの羞恥心と馬鹿にされたことに対しての憤りからだろう。
僕もあんな人といわれたことに不快感を持った。

「どうしてって・・・。リドルは完璧よ!あんな後輩を持てて私たちは幸せだわ!」

叫ぶように言ったのを見て、彼女は呆れたような表情を見せた。

「同じ学年になれなかったからって私に当たらないで下さいよ。」

彼女はそういうと、先輩らが呆けている傍をすり抜けるように通った。
はっと我に返った彼女等は急いで振り返った。

「いい気にならないで頂戴!」

早口で捲くし立てるように先輩は言うとの長い三つ編みを攫んだ。
さすがには焦ったように振り返る。
彼女の持っていた鞄が音を立てて落ちる。

「綺麗な黒髪よね。」

舐めるように先輩は黒髪を眺めた。
その瞳には羨望と嫉妬が入り混じる。

「この髪、切ってあげようか?」

隣にいた上級生が呼び寄せ呪文を使ってはさみを呼び寄せる。
彼女は髪の付け根が痛いのか、そこを押さえて顔を顰めている。いい気味だ。

「・・・さあ、はさみも手に入った。」

上級生二人は勝ち誇ったように笑った。
そこには、いつものように綺麗な先輩たちはいない。
魔法使いなんてこんなもんだなと思いながら、それを見ていると、が笑った。

何が起こったか一瞬わからなかった。

ばんっと大きな音を立てて、先輩は廊下の脇に叩きつけられていた。
は髪の付け根をさすりながら、先輩を鼻で笑った。
そして、僕のほうへと振り返った。彼女は僕を挑発していると直感的に悟る。
何故なら、彼女は僕に向けて嘲笑を浮かべたからだ。
それから、彼女は落ちたかばんを拾うと、僕がいる方とは反対側に消えた。





まさか、と思った。
彼女が無言呪文を習得しているなんて思わなかった。
厄介だ。僕は無言呪文を習得しているが、僕の手駒になりそうな人間は無言呪文などてんで使えない。
つまり、僕が自分の手であいつを始末するしかない。

そのためにはあれを使うしかない。
秘密の部屋についての記述は図書館の蔵書内にはほとんどないに等しかった。
けれど、何がいるのか、おおよそ見当はついている。
スリザリンの最後の継承者は僕だ。
だったら、スリザリン特有の何かを使うに決まってる。

一刻も早く、秘密の部屋に隠されているものを見つけないといけない。
僕が受けたこの屈辱は必ず死を持って償わせてやる。
消えたに、そう宣戦布告を心の中ですると、僕はその場を後にした。







 
2006/07/23 Written by mizuna akiou.