最後の約束。




暗い部屋の中、手を伸ばす。
誰もいないのはわかりきったことで、私はそれを求めていない。
だけど、誰かにいてほしい気がした。
ふっと、パソコンの画面に目を走らせると、さっき届いたパソコンのメールは未だに開けずに放置していた。
見たいとは思うが、このメールの主はよっぽど自分が追い詰められたときにしかメールを送ってこない。
だからいつも、あいつが送ってくるメールは見るのは億劫だった。
面倒な事が多すぎるのだ。
だけど、今回はそれだけじゃない。
このメールを受信したときに何か嫌な予感がしたんだ。
律儀なあいつは、いつも件名を入れるのに、今回はそれがない。
書く暇もなかったというのだろうか。
だけど今回、あいつが興味を持った事件がふと思い出し、青ざめた。
あいつはどんな難事件でも数分で解いてしまうようなヤツだった。
最後に会ったのは、その事件が世間で騒がれ始めたときだった。
あいつはあの事件を独自に調べていると言った。
いつも退屈そうなのに、その事件について語るときはやけに楽しそうだった。
あいつが見た犯人の心理があいつに近かったからだろう。
それを一気に思い出し、私は余計にこのメールを開く事が出来なかった。
今では、その事件は大々的にどのニュースで取り上げられ、はたまた、その事件のために番組までやっているほどだ。
未だに世間を騒がせている未解決事件なんて、しかも世界中にその名を轟かせるほどの事件なんて他にない。
もやは、一種の宗教にまで化したその犯人の通り名は私の心にしっかり刻み込まれている。
確かに犯罪者を殺す人殺しは確かに見た目はいいかもしれない。
例えば、財宝を独り占めする富豪から財宝を盗み貧民に分け与えるようなイメージがある。
だけど、それが正しいのか、悪いのか、私に判断はつかなかった。

「・・・」

茫然と考え込んでいるうちに、私はメールを開く一連の動作を無意識に始めていた。
黒くなって、休止状態になったパソコンを元のデスクトップへと戻し、未読のメールへと手をつける。
メールを開くと、中心にたった一文の英語が、そこに並んでいた。

 L is dead.

たった三つの単語で形成された一文をじっと見つめる。
なんとなく予感はしていたものだったけれど、目の当たりにすると、なんだか笑いが込み上げてきた。
彼は随分昔に冗談で約束をした。
私が『私の了解無しに死ぬなよ。』と言ったときに彼は『死ぬときはちゃんと連絡しますよ』と答えた。
ずっと戯言だと思って忘れていたけど、それを思い出して苦笑する。
突っ込んださ、死ぬときなんて分からないんだから、そんなこと出来るはずない。
だけど、あいつはやってのけた。
暗い静寂と機械音だけが響いていた世界に、私の笑い声が混じる。
嗚呼、あいつ死んだんだ。
実感が湧かないのに、私の目からは涙が零れていた。
私はパソコンの画面を見つめながら、笑っていた。


2006-08-26 Written by mizuna akiou .